研究概要 |
2009年度の研究成果としては,まず18世紀末から19世紀初頭にかけての,熱と水蒸気および蒸気機関の理論を熱素説との関係において研究した成果を,2009年5月に日本科学史学会(九州大学)および2009年7月28日~8月2日の会期で開催された国際科学史技術史会議(ハンガリー,ブダペスト)にて発表を行ったことがあげられる. 19世紀後半の舶用蒸気ボイラの発達を,ボイラ形式の変化と鋼の大量生産技術の確立との関係から検討した研究成果を,雑誌『科学史研究』に論文を投稿し,掲載が決定した. また,当該研究の加速度的進捗を図るため,英国を2度訪問し,資料収集および現地の機械などの視察を行った.研究の進展にともなって,デービス・ギルバート(1767-1839)が蒸気機関の理論形成に果たした役割に特に着目するようになった.Royal Institution of Cornwallの図書館には,トレビシックやホーンプロワーら技術者がギルバートとかわした書簡が,またCornwall Record Officeには,ギルバートの日記を含む彼に関する膨大な資料があり,その一部を複写した. そもそもコーンウォール地方は石炭を産出しない金属鉱山地帯であったため,蒸気機関の熱効率を改善する大きな動機があったことはよく言われてきたが,このような背景だけでは,熱に関する科学と蒸気機関との関係を論じるには不十分であると考える.実際に科学と技術を具体的に橋渡しする人物や人的ルートが存在していたのであり,その中心的人物がギルバートであったと考えている.この人的ルートを通じて彼らは技術情報や自然科学的知識を共有しており,こういった人的関係が当時の蒸気機関の理論形成に影響を与えたものと考えている.2010年度は,さらに研究を進めた成果を学会等で発表予定である.
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