研究概要 |
平成23年度は,昨年度開催した日本科学史学会第57回年会シンポジウム発表の報告書「デービス・ギルバートとコーンウォールの技術者たち-動力技術開発における技術者と科学者との交流」『科学史研究』第50巻258号(2011年),122-125頁を執筆した. 2011年5月に東京大学で開催された日本科学史学会第58回年会シンポジウム「物質・技術文化からみた近代数理諸科学の展開(1660-1840)」(代表者:野澤聡)にて「19世紀中葉までの「蒸気機関の理論」の物質的基礎」を発表した.さらにその発表時の間違いを直して大きく書き加えた報告書を雑誌『科学史研究』第50巻259号(2011年)165-169頁に発表した.この報告書で,コーンウォール機関やその他の蒸気機関に関する情報を技術者らが交換する窓口として,The Institution of Civil Engineersがある一定の役割を果たした可能性があること,19世紀中葉までの「蒸気機関の理論」は,現代から見れば間違った学説である熱物質説または熱素説をベースとしていたが,高圧蒸気の使用によって熱効率を上げたコーンウォール機関およびインジケーターの普及によって,間違った理論を実測によって補正することができたにちがいないであろうことを指摘した. 前述したように,「蒸気機関の理論」は熱物質説または熱素説を前提としていたが,18世紀後半,ランフォード伯やハンフリー・デービーによって熱運動説が提唱されている.この時期の熱運動説がコーンウォールで活躍した技術者たちの蒸気機関の改良や彼らの熱理論にどのような影響を与えたかについての研究成果は,平成24年度に学会で発表予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
英国Cornwall地方にあるRoyal Institution of CornwallおよびCornwall Record Officeの資料によって,加速度的に研究が進捗しているためである.特に熱力学成立前の時代については,当初,期待した以上の成果をあげつつある.一方,当初計画していた19世紀初頭の水力機関および特に活力(vis-viva)の理論と熱力学成立前の蒸気機関の理論との関係,熱力学成立後の技術者への熱力学の普及およびそれら理論が各時代にどのようにして実際の蒸気機関の設計・製造・使用に応用されたかについては,研究の進展にともなって,研究対象を熱力学成立前の蒸気機関の理論に特に着目しているため,進捗としてはやや遅れているのかもしれないが,それ以上に,最初に述べた研究課題が大きな成果をあげつつあるので,その他の遅れを埋めるのに申し分ないものである.全体としては,「当初の計画以上に進展している」と判断している.
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