研究不正行為が、研究者コミュニティの枠を超えて、社会的政治的争点として位置付けられ、行政や規制機関による介入・関与を背景として研究者倫理が制度化されてきたプロセスについて、1980年代以降の米国での展開に注目して検討するとともに、米国とは対照的なかたちで研究不正への対応が展開したデンマークの事例について、比較対象として調査・検討した。研究枠組みの検討に関して、米国における研究不正行為・研究者倫理に関する先行資料・文献を系統的に調査し、関連する文献リストの暫定版データベースを作成した。また、米国で研究不正行為に対する社会の視線・扱いがどのように変化したかを調査するため、第二次大戦後、NewYorkTimesなどの各種新聞に掲載された関連記事を系統的に調査した。この調査結果については、いま分析を行っている最中である。また、デンマークの事例について調査するため、デンマーク科学技術イノベーション庁研究不誠実性委員会(Danish Committee on Scientific Dishonesty)を訪問調査し、デンマークにおける取組の歴史的展開についてインタビューするとともに、科学者コミュニティによる同委員会への認識について関連する研究者に聞き取り調査を実施した。デンマークでは、ロンボルグ著『Skeptical Environmentalist』が研究不正への対応をめぐって大きな議論を巻き起こし、デンマーク研究不誠実性委員会の活動にも大きな影響を与えたことや、研究倫理の制度化をめぐるモデル作成において重要な示唆を与えることが明らかになった。以上の調査結果を踏まえて研究者倫理の制度化をめぐる国際比較モデル作成における論点を、日韓若手STS研究者ワークショップで発表し、科学技術社会論研究者と意見交換を行った。
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