研究課題
本研究は、研究代表者によってはじめて明らかにされた「世界最古の油彩技法」が中央アジア・アフガニスタンのバーミヤーン仏教壁画で使用されたという事実を踏まえ、さらに周辺領域に視点を広げて、油彩技法や油性塗料の起源・由来を明らかにすることを目的とするものである。初年度となる本年度は、インド・アジャンター遺跡、中国新疆ウイグル自治区・キジル千仏洞の石窟壁画、イランのクーヘ・フワージャ遺跡等のユーラシア大陸に広がる壁画に使用されている彩色材料や技法について知見を得ることを目的として実際の壁画に関する現地調査、彩色の表面観察や技法調査を行った。これらの壁画は、すべて練り土からなる壁に、有機物質を膠着材とした絵具を使用して彩色をしたいわゆる「ア・セッコ」技法によって描かれたものであった。イラン、インドの壁画と異なり、キジル千仏洞の壁画には、多くの黄色部分と有機物質が使用されたと考えられる部分が褪色しており、鉄線描と金属箔が多用された技法がみられることが特徴的であった。携帯型実体顕微鏡等を用いた表面観察によれば、キジル千仏洞の壁画には、多くの有機物質の変褪色や無機物質の変質等が観察された。現地調査を行うと同時に、インドや地中海世界に伝わる彩色材料や技法に関する文献を調査し、当該地方における植生・地質に関する調査と、グプタ朝時代、ローマ時代等の古典彩色技法書などを用いて伝統的な材料や技法に関する基礎的な情報の収集についても実施した。
すべて 2010 2009
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (3件)
Comptes Rendus de 1' Academie des Science Physique 10
ページ: 590-600
東京藝術大学美術学部紀要 47
ページ: 113-136