平成21年度は、主として無形民俗文化財としての民俗芸能や祭礼に関する博物館等での展示に関する事例調査を行った。通常、無形の民俗文化財は、有形のモノを想定した博物館や資料館等での展示にはなじまないものであるが、近年は企画展・特別展というかたちで博物館や資料館で取り上げられる例も多い。こうした展示は、伝承地域だけでなく広く一般の人々に無形民俗文化財としての民俗芸能や祭礼を知ってもらうという、文化財の活用の一手法としての公開の機会であるとともに、その展示の企画のために一定の地域内の様々な対象を比較し、体系づける研究を促進するという意義を持つ。実際に調査を行ったのは、(1)大阪歴史博物館(大阪市)・特別展「大阪の祭り」、(2)沖縄県立博物館・美術館(沖縄県那覇市)特別展「琉球使節、江戸へ行く!」、(3)島根県立古代出雲歴史博物館(島根県出雲市)企画展「出雲の神楽」の3例である。 とくに民俗芸能や祭礼を内容とした展示の場合は、展示解説や講演会、また場合によっては芸能の実演などを行って、モノの展示だけでは伝えることの難しい無形の側面への情報提供が行われている。また展示における映像記録の活用が重要となっていた。このことは、博物館の展示とはいっても、その成果はそれぞれの博物館の継続的な調査や記録作成事業の集積がもとになっているのであり、単純な来館者数などの評価だけではその意義を捉えきれないことを表している。 また、無形民俗文化財としての民俗芸能の情報の公開と活用という観点から、福岡県の「ふくおか民俗芸能ライブラリー」事業に関する調査も行った。これはインターネットを通して、県内の民俗芸能に関する情報を提供するサービスで、ここで提供されるコンテンツは、それ以前に実施した「福岡県民俗芸能保存調査事業」によって得られたものであり、一つの事業の成果を、さらに発展させ有効に活用した例として優れたものであった。
|