平成22年度に引き続き、基礎的情報として、都道府県の文化財保護条例等の法令・規定の収集を行った。また、各都道府県指定の無形民俗文化財の一覧を作成した。この分析から、昭和30年代から40年代にかけて、都道府県が民俗芸能等を無形文化財として積極的に指定しており、その背景に文化財保護委員会(文化庁)の指導があったことを確認した。 保護事業の実態としては、(1)映像記録の作成事業、(2)博物館・資料館等における公開について、フィールドワークを含む調査を実施した。 (1)映像記録作成事業に関しては、別のプロジェクトで実施してきた無形文化遺産の記録所在情報データベースが完成し、全国的な記録作成実績を把握することが可能になった。個別の事業に関して、鹿児島県いちき串木野市の大里七夕踊りの記録作成について調査した。大里七夕踊りは、平成12年度の教育委員会制作の映像記録、平成20年度の民間テレビ局によるドキュメンタリー番組、今年度の鹿児島民俗学会の有志による映像記録と、近年にも多くの記録作成が行われているが、伝承者によく認知されているのはテレビ局の番組である。度々放送され視聴する機会が多かったことに加え、テレビで放送されるということが、伝承者の意識を高めるインセンティブとなっていた。 (2)博物館等による公開事業としては、ユネスコ無形文化遺産登録を機に、伝承公開施設をリニューアル公開した広島県北広島町の芸北民俗芸能保存伝承館の事例、島根県との交流事業の一環として神楽の比較をテーマとした岡山県立博物館の特別展などを調査した。岡山県博の特別展でも、島根県からユネスコ無形文化遺産の佐陀神能を招いて企画上演を行っていた。博物館等では、無形の文化をテーマとする場合、「動態展示」等と称して公開上演を行うことが多いが、展示との有効な連携など、その方法論は必ずしも確立しているとは言えない状況が確認できた。
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