平成24年度の研究実績は以下の通りである. 昨年度に引き続き,CORONA偵察衛星写真及び空中写真の実体視判読によってブータン国内全域を対象に活断層の抽出を行った.明らかになった点は以下の通りである. 1)ブータン南部(主に北緯27°以南):a)主に東西走向の断層が多い.b)長さ30kmより短い断層からなり,地域によっては東西走向の断層が数条にわたり重複して分布する.c)東西走向の断層のうち,平野と山地の境界では北側隆起の断層変位を示すが,山地内は南側隆起の断層が多い.d)91°Eより東部では,断層の密度が小さくなり,主境界スラスト(Main Boundary Thrust: MBT)沿いにトレースが集中する傾向が認められる. 2)ブータン中部・北部 a)南部に比べて分布密度が低い.ただし,91°Eより東部では比較的活断層が分布する.b)北西-南東走向の断層は右横ずれ変位,北東-南西走向の断層は左横ずれ変位をもつ断層が認められる. 3)地質構造と断層分布の関係:ブータンの地質構造の特徴は,シワリク丘陵の発達が極めて悪いこと,過去のプレート境界であるMBTや主中央スラスト(Main Central Thrust: MCT)も平野に近いところに認められることである.ブータン南部の活断層は,MCTとMBTの間の低ヒマラヤ内に発達する.この特徴は,ネパールの活断層分布が,主要地質構造線に集約的に発達し,低ヒマラヤ内では分布密度が低いことと対照的である.ただし,91°Eより東部では,MBTに沿って断層が認められることから,ネパールヒマラヤと類似した断層発達とみられる.このような断層発達の違いは,長期にわたるプレート衝突の形式が,ブータンで他地域と異なっているため,低ヒマラヤ内に数多くのスラスト構造が発達した結果,その構造を利用して現在活断層が再活動していると予想される.
|