研究概要 |
考古遺跡で得られる地形・地質情報を用いて,高精度の時間・空間的分解能を有する臨海沖積低地の地形発達史を編むことを目的とした研究を行った.本年度は,越後平野および津軽平野を対象として調査を実施した. 越後平野中部に立地する平安時代初頭の遺跡では,遺構面を覆う層厚10~30センチ程の有機質シルト層が共通して認められる.遺跡周辺を対象として約20地点でハンドボーリング調査を実施し,同層の分布状況を確認するとともに,年代測定と花粉分析を実施した.その結果,有機質シルト層は越後平野中部の広範に分布しており,10世紀初頭に生じた湿地環境の下で形成されたことが明らかになった.また,周辺に立地する考古遺跡の情報を整理した結果,平安時代初頭の遺構面が腐植質の堆積物によって埋積される現象は,海岸部の砂丘列上でも生じたことがわかった.こうした広範にわたる劇的な堆積環境変化をもたらす要因としては,角田山東縁断層の最新活動にともなう平野部の沈降イベントが想定される. また,津軽平野では南部の扇状地および北部の氾濫原に立地する遺跡を対象として地形・地質調査を実施した.その結果,特に弥生時代~平安時代における岩木川とその支流の動態(堆積と下刻)を示唆する詳細なデータが得られた.津軽平野南部の浅瀬石川扇状地に発達する完新世段丘は平安時代に形成され,同時期,下流の氾濫原では大規模な洪水堆積が生じたことが明らかになった.氾濫原の洪水堆積物からは十和田平安噴火にともなう火山灰が検出されたことから,同噴火が平安時代の津軽平野の地形発達に影響を与えたことが示唆される.
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