本研究のこれまでの成果により、熊谷地域を含む関東平野北西内陸域で著しい高温となる際にしばしば発現するフェーン現象において、越後山脈を刻む魚野川-利根川の谷筋のような比較的細い谷筋を吹き抜ける風(ギャップ流)が時折見られることが指摘された。それを受けて、平成24年度は、特にこのギャップ流が熊谷地域を含む関東平野北西内陸域の高温に与える影響について詳細に調査することを重点課題とした。魚野川-利根川の谷筋を抜けるギャップ流が発現したと思われる2007年8月16日の事例について、水平分解能800mの高分解能な領域モデルシミュレーションを実施して当日の気流を再現し、流跡線解析によって熊谷地域が日最高気温を示した際の地上付近の空気がどのようにもたらされたかを調査した。その結果、日本海側の地上付近の空気がギャップ流として越後山脈風下側の地上付近で発散して下降流の形成を促し、日本海側の上空約1500m付近の空気が越後山脈を越えた後、風下側斜面に沿って下降し熊谷地域の地上付近に移流していることが示された。このようなフェーンの構造は、ヨーロッパアルプスの研究で「浅いフェーン」と呼ばれており、著しい昇温をもたらす現象として研究されているが、関東平野において浅いフェーンの存在を指摘した研究はこれまでになく、その成果は日本地理学会にて発表された。 本研究の当初の研究計画に対しては、十分な成果を得られたとは言い難い部分もあり、また当初の研究計画とは方針転換した部分もあった。しかし、ギャップ流の存在が熊谷地域の高温の一因となりうることを指摘したことは、本研究における大きな成果である。後継研究として、谷筋に沿う高分解能観測網の設置とモデルシミュレーションにより、ギャップ流の発生頻度やその微細構造、関東平野の昇温に与える影響について調べる事を計画している。
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