研究課題
本年度は2008年7-8月に西部北太平洋上、学術研究船・白鳳丸にて取得した海洋大気エアロゾルサンプルについて海洋生物起源のトレーサーとなる化合物も含む有機態窒素の分析を行った。元素分析計による全窒素濃度(TN)及び純水抽出したサンプルを用いて水溶性全窒素(WSTN)を溶存窒素分析装置で測定した。この際、エアロゾル中の窒素の収支をより正確に評価するため、有機態窒素化合物の標準物質を用いて化学蛍光法によるWSTNの検出効率を求めた。さらにイオンクロマトグラフを用いて無機態窒素も分析することで無機態窒素(WSIN)全量を測定し、水溶性有機窒素(WSON=WSN-WSIN)濃度を導出した。前年度に確立した手法を用いて分析を行った低分子アルキルアミンについては、海洋エアロゾル中にジエチルアミンを検出することに成功し、その緯度分布は北緯40度以北の高緯度亜寒帯に多く存在するなどの特徴を明らかにした。さらに上記の測定により有機態窒素を水溶性・非水溶性成分に分画し、安定炭素同位体比および窒素同位体比と併せて分析を行った。メタンスルホン酸などの海洋生物トレーサーを併用して解析した結果、エアロゾル中の有機態窒素の多くはこれまで見過ごされてきた海洋生物(植物プランクトン、バクテリア)由来の非水溶性成分(WION)であることを明らかにした。また海面風速との相関から、海面から海洋大気中への一次放出がWIONの生成に大きく寄与していることを初めて指摘した。従来、汚染物質を中心とする大気から海洋への供給という観点でのみ考えられてきた窒素循環について、海洋生態系からの窒素を含む有機エアロゾルの供給が大気化学・雲生成へ及ぼす影響を指摘した。これらの研究成果は、海洋生物起源の有機エアロゾルが大気-生態系における窒素・炭素循環に果たす役割を明らかにしていく上で重要であると考えられる。
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Journal of Geophysical Research Atmospheres
巻: 115 ページ: dio:10.1029/2010JD014439
Atmospheric Chemistry and Physics Discussions
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