研究概要 |
本研究の目的は過去70万年間における大気エアロゾルの組成を復元することである。過去の大気エアロゾル組成を時系列的に連続な状態で保存しているのは極地氷床のみである。南極ドームふじ氷床コアから水溶性のエアロゾル組成を抽出するために、氷をはじめとする揮発性の成分を融解させずに取り除く必要があった。そこで,-50℃の環境で不揮発性粒子を集める方法を確立した。 補足された不揮発性粒子の組成をエネルギー分散型X線分析で分析した。2万年分解能で大気エアロゾル組成を分析したところ、氷期間氷期スケールの気温変動に対応するように温暖期では硫酸ナトリウムが寒冷期には硫酸カルシウム、塩化ナトリウムが主成分であることが明らかとなり、南極上空に存在していた水溶性の大気エアロゾルはその組成が気候ステージで異なっていることが分かった。 研究の過程で、南極内陸のエアロゾル組成が大気中の化学反応を反映するのか、積雪中の反応を反映するのかが重要な課題となった。そこで、南極ドームふじ地域の表面積雪に含まれるエアロゾル組成分析を行い、上記の課題について評価した。その結果、南極ドームふじ氷床コアに保存されている大気エアロゾルは大気中の化学反応の環境プロキシーとなることを突き止めた。この結果は現在(2011年3月4日の時点で)査読付きの雑誌に投稿中である。 大気中に存在するエアロゾルの組成は放射特性、雲核としての特徴に違いがあり、今後地球大気の熱収支変遷に重要な要素にある。その意味で、過去数10万年間のエアロゾルの組成の変遷を探る意義は大きく、本成果を発展させ、今後も関連研究を継続したい。
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