研究概要 |
本研究は、温室効果ガスである亜酸化窒素(以下、N_2Oと省略)を生成する土壌糸状菌のデータベース構築を行うものであり、窒素循環に果たす糸状菌の生態学的役割を再検証することを目的としている。本年度は、昨年度の成果からN_2O生成糸状菌の代表菌株を選抜し、新規N_2O生成経路の解明および内生細菌保有糸状菌のN_2O生成機構の解明を行った。新規N_2O生成経路については、各種阻害剤を用いて次の3つを経路の推定を試みた。なお、供試菌株はMetarhizium属分離株を代表株とした。(1)硝化反応によって、有機体窒素が硝酸イオンに酸化され、続いて脱窒反応により硝酸イオンからN_2Oを生成する経路。(2)硝化過程から副産物としてN_2Oを生成する経路。(3)アルギニンから一酸化窒素を生成し、さらに一酸化窒素からN_2Oを生成する経路。現在までに、一酸化窒素生成酵素の阻害剤(L-NAME)の実験から、阻害剤を加えた場合でもN_2O生成が認められたため(3)の経路である可能性は低い。今後(1)および(2)に関してさらに解析を進める必要がある。一方、内生細菌保有糸状菌のN_2O生成機構の解明では、N_2O生成糸状菌で内生細菌を保有する菌株Mortierella elongataについて詳細に検討した。単胞子分離法から内生細菌を保有していない株の選抜に成功した。保有株、非保有株についてN_2O生成活性を検討したが、どちらの株からも同程度のN_2O生成が認めらた。また、保有株のDNAを抽出し、脱窒関連遺伝子(nirS,nirK遺伝子)の検出を試みたが陰性だったため、糸状菌のN_2O生成における内生細菌の関与の可能性は低いと考えられた。Mortierella属以外のN_2O生成糸状菌についても内生細菌の検出および内生細菌保有糸状菌のN_2O生成機構の解明についてさらに解析を進める必要がある。
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