研究課題
本年度は、前年度に開発したキャビティリングダウン(CRDS)法を用いたエアロゾル消散係数の湿度依存性計測装置を用いて、都市域(東京都内および名古屋市内)における実大気観測を行った。東京都内での観測においては、エアロゾル消散係数の湿度依存性と、エアロゾル質量分析計(AMS)や元素状炭素・有機炭素計測装置(EC/OC計)を用いたエアロゾルの化学成分の同時観測を行い、エアロゾルの化学組成と消散係数の湿度依存性との間にどのような関係があるか定量的に評価した。その結果、硫酸塩の割合が大きい時には、加湿に伴う消散係数の増加率が高く、一方、元素状炭素や有機性炭素の割合が大きい時には、加湿に伴う消散係数の増加率が低くなることが判明した。また、従来は、エアロゾルの硫酸塩と有機物の割合から消散係数の湿度依存性を推定する試みがなされていたが、本研究の結果、都市大気エアロゾルの場合、加湿に伴う消散係数の増加率を抑える成分として、有機物よりもむしろ元素状炭素が重要な寄与を持っており、硫酸塩や有機物に加えて、元素状炭素の割合を考慮することで、消散係数の湿度依存性がより正確に推定できることがわかった。名古屋市内での観測においては、CRDS法による消散係数の湿度依存性の計測とともに吸湿性測定用タンデム静電分級器(HTDMA)により、加湿に伴う粒子の粒径変化の測定を同時に行った。加湿に伴う粒径変化から、消散係数の湿度依存性の変化を再現し、CRDS法による実測値と比較した。その結果、吸湿性の低い粒子に対して元素状炭素の屈折率を与えるなど、より実際に近い屈折率を与えることで、消散係数の湿度依存性の推定が実測値に近づくことが判明し、エアロゾル消散係数の湿度依存性の決定する上で、粒子の屈折率が重要なファクターになっていることが示された。
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