H22年度から開始している過去再現実験を継続して実施した。この過去再現実験の一部は地球環境研究総合推進費・戦略的研究開発領域課題と連携し効率的に行った。観測データが利用可能な1970年代以降の計算結果については、オゾン、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOy)、硫黄酸化物(SOx)、および炭素性エアロゾル(BC・OC)の各汚染物質の分布変動を、観測(地表、ゾンデ、航空機、衛星)と詳しく比較し、評価した。さらに、タグ・トレーサー手法で計算された各汚染物質の各領域起源ごとの輸送の変動を評価し、特に北米・ヨーロッパ・アジアを跨ぐ汚染物質の長距離輸送がどのように変動してきたかについて、過去の観測と融合した解析を行った。この結果、日本・アジア域のオゾン・CO濃度については、1980年代までは、北米・ヨーロッパからの長距離輸送が大きく寄与していたが、1990年代以降はアジア域汚染の影響が支配的であることなどが示された。また、このような汚染物質の全球分布と長距離輸送・輸送経路の変動について、(1)ソース領域でのエミッション変動(主に増加トレンド)、および(2)気候変動(温暖化やエルニーニョなど)による循環場・水蒸気場等の短期・長期変動の影響をそれぞれ分離するシナリオ実験を併せて実施し、それぞれの要因が汚染物質の長距離輸送過程に与える影響を定量評価した。ここでは、とくに対流圏オゾン分布の変動要因に着目した解析を行い、オゾン変動がENSOやAO、モンスーンなどの気候振動と強く相関しながら変化することを明らかにした。以上のような結果を用い、大気汚染・長距離輸送の変動メカニズムについて総合的に整理しまとめた。
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