まず、前年度に開発を行った半導体レーザー分光法を用いたメタンの計測機器の検出感度評価実験を行った。具体的には、濃度が既知である標準のメタンガスシリンダーと純空気(合成空気)シリンダーを用意し、マスフローコントローラーで流量を制御しながら、光学キャビティー内のメタン分子の数密度を精密に制御した。吸収強度と濃度との間の線形関係から検出下限を見積もった。その結果、1秒積算で1ppbv(ppbvは体積混合比)の検出下限を達成した。また、混合ガスを一定時間システムに流し続けて、検出下限や計測精度の安定性を評価した。アラン分散解析により、130秒のシグナル積算でもっとも小さな標準誤差(0.11%)を与えることが分かった。次に、滋賀県大津市にある暖温帯ヒノキ林に装置を持ち込んで、自動開閉ガス循環型チャンバーを用いたフィールド計測を行った。閉鎖型ガス循環チャンバーからのガスを、ダイヤフラムポンプを使ってサンプリングし、メタン濃度をリアルタイムに計測した。シグナル積算は1秒ないし2秒程度とした。光学キャビティーが微粒子等で汚染されるのを防ぐため、テフロンフィルターで微粒子を除去しながらサンプリングした。チャンバーは複数個用意し、群葉、幹、土壌(林床)をカバーした。チャンバーでカバーする群葉、幹、林床の被覆表面積と、メタン濃度の時間的推移から、群葉と大気、幹と大気、土壌と大気の間のそれぞれの交換フラックスを測定そた。メタンのみならず、水蒸気と二酸化炭素の濃度変動も同時にも、市販の非分散型赤外分光計で測定し、メタン動態の解明に役立てた。葉群と幹については、ヒノキからの優位な放出あるいは吸収のフラックスは観測されなかった。土壌フラックスは、明瞭な季節変動を示していること、降雨後のフラックスの急変動などが観測され、土壌フラックスが群落スケールでの森林・大気間フラックスの主要な決定要因であることが示唆された。
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