地球最大の炭素貯蔵庫である海洋中深層への炭素輸送は、セジメントトラップ実験に代表される沈降粒子観測に基づくデータ解析やこれらの経験則で議論されてきたが、この観測では把握できない過程が炭素輸送に大きな影響を持つことが分かってきた。本研究では、北太平洋外洋域をモデル海域として、(1)沈降粒子に与える動物プランクトンの影響を評価すること、(2)動物プランクトンによる能動的炭素輸送を定量化することを目的とし、海洋観測・現場標本解析・船上実験を組み合わせ、次のような結果が得られた。 (1)当該海域の微小プランクトン群集ではバクテリアがピコ植物プランクトンよりも優占し、微小動物プランクトン餌要求がバクテリアで十分賄えるため、微小動物プランクトンが植物プランクトン群集組成に及ぼす影響は小さいことが示唆される。 (2)沈降粒子に占めるメソ動物プランクトン糞粒の割合は、当該海域では数パーセント以下であり、沈降中に生物によって急速に消費・分解されるか、もしくは極めて小さい粒子状に断片化される。 (3)海洋中深層へ沈降していくメソ動物プランクトンの糞粒は、いずれの時期・海域でも常にカラヌス目カイアシ類から排泄された糞粒が多くを占め、沈降に伴って形状は変化せずに断片化する。 (4)これら糞粒は動物プランクトン群集で優占するカイアシ類によって断片化・消費されており、これまで微小動物プランクトンによって糞粒が消費されるという説は外洋域では再考する必要がある。 (5)基礎生産が低い海域・時期では、オキアミ類やカイアシ類などの動物プランクトンによる能動的炭素輸送が沈降粒子などの受動的炭素輸送に比べて相対的に重要になる。
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