本研究においては、近年注目を集めている大気ヨウ素エアロゾル生成に関係する大気中での反応性ヨウ素化合物の新たな生成過程の解明を目的に、時間分解型キャビティーリングダウン分光法などの反応測定装置を主に用いて、硝酸ラジカル(NO_3)とヨウ素化合物の反応の測定と反応速度定数の決定を行っている。NO_3ラジカルとヨウ素化合物の反応を上記の反応測定装置を用いて測定することにより、反応速度定数の決定を行うことができる。このようにして、測定した反応が与える大気への影響を検討していくことが本研究の目的である。平成22年度においては平成21年度に引き続き、時間分解型キャビティーリングダウン分光法を用いて、NO_3ラジカルとヨウ素原子の反応の測定を、より高精度に、また様々な実験条件下において行い、その反応速度定数の測定と決定を行った。また、この反応速度定数を正確に決定するためにその反応速度を知っておく必要性がでたNO_3ラジカルとNO_2の反応速度定数の決定も行った。このようにして本研究で決定したNO_3ラジカルとヨウ素原子の反応の速度定数の値は、2008年に他の研究グループにより報告されている値のおおよそ3分の1の値であり、それ以前の報告されている値の10分の1程度の非常に小さい値であった。このことより、NO_3ラジカルとヨウ素原子の反応が実際に大気に及ぼしている影響は、これまで考えられていたより小さい可能性があり、この反応の大気中での影響の見積を再評価し直す必要があることが分かった。これらの結果は国内学会や国際ワークショップにおいてすでに発表しており、今後、学術論文として公表していく予定である。
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