本研究では、陸上土壌、水域、生物体内の腐植化過程において普遍的にみられる天然有機物の生化学的特性を解明することを主目的とした。まず、陸上土壌、水、生物体内抽出物について、GPCソフトを内蔵したHPLCにより、分子量を求めた。その結果、タンパク質ベースで分子量およそ7000Da付近に極大なピークが一つだけみとめられる特性があることが分かった。また、University of South CarolinaのRonald Benner教授の下、アミノ酸等の測定法について学び、上記サンプルについて加水分解性アミノ酸を測定することができた。その結果、異なる種類の植物葉を入れた土壌では、初めは異なっていたアミノ酸組成が、分解を経るごとに植物種によらず似通ってくることが分かった。同様のことは、生物体内についても言えた。異なる餌を与えた乳牛および乾乳牛中の消化管内容物は、消化を経るごとにアミノ酸組成が似通っていった。また、分解につれて割合が増えるアミノ酸と逆に割合が減るアミノ酸もほぼ同様であった。これらの傾向は、水域で得られている値とも似通っており、陸上土壌、水域、生物体内において有機物の組成が腐植化過程で似通ってくることが示唆された。また、クロノシークエンスによる天然有機物の長期腐植化については、北海道苫小牧市の露頭にて採取された樽前山埋没火山灰、それに北海道洞爺湖町の新鮮有珠山火山灰を用いて比較検討を行った。その結果、年代の長いものほど溶存態有機物が主に鉄やアルミの水酸化物類とともに豊富に吸着され、長期になるほどその吸着が飽和してゆくことが明らかとなった。天然有機物は地球上の重要な炭素蓄積源であるため、こうした知見は温室効果ガスである二酸化炭素の放出をはじめとする地球規模での気候変動に関する理解に大きく資すると考えられる。
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