1.干潟環形動物を介した環境中のPAHsの高濃度集積機構の解明 平成22年度は、高濃度のPAHsを含むと考えられるイワムシの摂食対象物の特定を目標に分析を行った。養老川河口付近の海水懸濁物を採取し、孔径の異なる数種のろ紙でろ過し、粒子サイズ別に懸濁物中のPAHsの分析を行ったところ、底質表層に堆積しイワムシの摂食対象となりうる比較的径の大きな画分からは、高濃度のPAHsは検出されなかった。一方、同じ干潟に生息するシオフキの擬糞の分析を行った結果、イワムシ糞と同様に高濃度のPAHsを含むことが分かった。シオフキ擬糞中には、環数の少ないPAHsが多く含まれ、イワムシ糞で見られたPAHsとは異なる分布を示したが、粒子径の小さい海水懸濁物を先ずシオフキなどの懸濁物食者が集め、その後それをイワムシが取り込む可能性についても今後確認する必要があることが分かった。 2.環形動物糞中でのPAHsの高速分解機構の解明 平成22年度は、イワムシ糞中の微生物によるPAHsの分解の可能性について調べることを目指した。先ず、嫌気及び好気条件下で糞を放置し、PAHs濃度の変化について比較を行ったところ、糞中PAHs濃度は、これらの条件に関わらず、時間経過により一様に減少することが分かった。これより、イワムシ糞中PAHsの濃度低下には、嫌気性又は好気性微生物の関与は小さいことが推測された。また、糞中の界面活性剤濃度を、LC/MSを用いて測定した結果、底質の約30倍高濃度であることが分かり、PAHsと同様に時間と共に濃度低下することが確認された。
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