1.干潟環形動物を介した環境中のPAHsの高濃度集積機構の解明 平成23年度は、イワムシの摂食対象物を同定することを目的として、水中カメラを使用してイワムシの摂食対象物の確認を試みた。しかしながら、一台のカメラで観測できる範囲や、観測時間帯が限られたことから、イワムシの摂食行動を捉えることはできなかった。そこで次に、二枚貝などの懸濁物食者を介したイワムシへの段階的なPAHsの濃縮の可能性について調べるために、平成22年度に行ったシオフキ擬糞中のPAHsについて更に詳しく分析を行った。その結果、シオフキ擬糞中のPAHs濃度は、底質の6-15倍であり、同時に採取したイワムシ糞(30-100倍)の1/6と低く、分布も異なることが分かった。また、シオフキ擬糞を24時間放置した場合にも、イワムシ糞中で見られるようなPAHsの濃度低下は全く起こらないことが分かった。これらの結果から、イワムシは底質表層堆積物からより選択的に摂食対象を取り込む機構を持ち、それがPAHsの高濃度集積に関与している可能性があると考えられた。 2.環形動物糞中でのPAHsの高速分解機構の解明 平成23年度は、イワムシ糞中でのPAHsの高速分解挙動について、より詳細な経時変化を調べ、各PAHsの半減期の算出等を行った。その結果、糞中の各PAH濃度は、排泄直後から2時間までは指数関数的に減少し、一次反応として近似出来ることが分かった。半減期はPAHの種類により異なったが、大部分は約2時間と見積もられた。更に2時間以上の放置において、糞中のPAHs濃度はほとんど変化しなかったことから、イワムシ糞塊中のPAHsの高速な濃度低下を引き起こす因子は、排泄後2時間でほぼ失われることが分かった。また、上記1のシオフキ擬糞における実験結果から、このようなPAHsの高速分解は、イワムシ糞中で特異的に起こることが確かめられた。
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