氷床コアを用いて過去の気候変動を詳しく解明するためには、間氷期である現代において、水蒸気や雪に含まれる化学物質がどのように極域へ輸送されているかという物質循環過程を知ることが求められる。本研究では、南極の沿岸域(昭和基地近傍)から内陸地域(ドームふじ基地)間への水および化学物質の輸送経路を明らかにすること、涵養量をもとにして、地点ごとの物質の年間沈着量を明らかにすることを目的としている。日本の南極地域観測隊によって、これまでに採取された表面積雪試料のpH、電気伝導度、主要イオン濃度、酸素・水素安定同位体比の測定を行っている。現在までに次のようなことが明らかになった。 1. 海塩由来の物質であるNa^+とCl^-は、海から離れると速やかに濃度が低下していた。表面積雪中のNa^+とCl^-濃度には、春と夏での明らかな季節差は見られない。 2. 成層圏由来の物質と考えられるNO_<3->濃度は、南緯73度付近より南の地域で急激に濃度が高くなった。内陸地域では沿岸域より濃度が約20倍高くなっている地点もあった。また、内陸において明瞭な季節差(春>夏)が観測された。 3. SO_4^<2->濃度は夏に沿岸域で高くなっていた。特に非海塩起源硫酸イオン濃度が増加していた。 年間沈着量を明らかにするために、平成21年秋に日本を発ち、平成22年春に帰国する第51次南極地域観測隊に、南極の沿岸域から内陸地域間の複数地点において、直近1年(または2年)分に相当する雪の採取の依頼を行った。
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