研究課題
本研究はカンボジア国における落葉林を対象として、現地観測に基づいて(1)上層木と下層植生の蒸散量と水収支への寄与率、ならびに(2)上層木と下層植生の蒸散とその全蒸散量への寄与率の季節変化を明らかにすることを目的とする。そして、(3)上層木と下層植生それぞれの気孔の開閉度(表面コンダクタンス)の評価とその環境応答特性のモデル化を行い、上層木が消失した場合の環境変化を簡易予測する。樹液流速測定法の一つであるグラニエ法のセンサーを合計12個体の落葉樹に設置し、上層木の蒸散量(TR)を評価した。さらに、上層木の林冠上と林冠下においてバンドパス・渦相関法を用いて蒸発散量を計測した。すなわち、林冠上の蒸発散量(ETA)は上層木と下層植生の双方を含む生態系全体の蒸発散量、林冠下の蒸発散量(ETU)は下層植生の蒸発散量であり、両者の差分として上層木の蒸散量(TRD=ETA-ETU)を得た。TRとTRDはよく一致し、異なる2つの手法によって妥当な上層木の蒸散量が得られたものと考えられる。欠測を除いた2010年6月~2011年6月のETAに占めるTRあるいはTRDの割合は50~60%であり、40~50%が下層植生による蒸発散であると考えられる。本サイトでは上層木と下層植生がほぼ同等に生態系全体の蒸発散へ寄与しており、水循環を理解するためには上層木と下層植生のいずれも欠くことなく知見を集積する必要がある。得られたETAおよびETUから生態系全体および下層植生の表面コンダクタンスを算出するとともに、Jarvis型モデルを作成し、上層木が消失した場合の表面温度を簡易評価した結果、平均3℃の上昇が予測された。同国は急激な経済発展を続けており、上層木の伐採が進んだ場合、著しい環境変化が生じる可能性が示唆された。
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Hydrological Processes
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