モンゴルの植生移行帯における3地域のうち、森林-草原移行帯に整備した気象土壌環境観測システムを用いて、"地形水収支フィルターサブプログラム"の高度化、"土壌水分・植物相互作用サブプログラム"開発を目的とし、植生・水収支データを取得した結果、以下のことがわかった。 1.夏季の気候要素の植生間の比較:水収支に関して唯一のインプットとなる降水量、および気温については有意な差は見られなかった。他の気候要素については、森林内部は林外の草原と比較して、地表面温度、風速の値が定常的に小さい。また地表面での放射収支では、下向き短波長成分で草原の値が林内の値を大きく上回っていた。またこれに関連して大気中の湿度は常に高く保たれていることがわかった。 2.日~週単位での気候要因間及び土壌水分の相関:草原では平均風速は2m/sを超え、常に大気の鉛直混合が起こり気温と地表面温度に差は見られない。一方森林内の風速は草原と同期しているが平均値は0.3m/s以下と小さく、森林内で気温の鉛直勾配ができやすいが、日平均風速が0.5m/sを超えるときのみ大きく鉛直混合が起こっている。土壌水分はいずれの震度でも降水に即応して上昇するが、その変動幅は深度が小さいほど大きい。 以上の結果を踏まえたバルク法による水熱収支推定によると、森林内部が草原に比べて、土壌からの蒸発速度が小さいことが示唆された。これは、前年度の観測から示唆された植物バイオマスが土壌の保水能に正の効果をもつことで、土壌水分-植物間相互作用に正のフィードバックが働いていることを、さらに補強する結果である。この成果は次年度の観測結果を加えて国際会議(PGNEI)で発表した。
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