本研究は臭素系難燃剤を対象に、ライフサイクル(製造・流通・製品使用・消費・廃棄)過程における環境中への排出量を推定し、さらに環境モニタリングで得られた測定値と比較検証することで解明されていない排出量や排出経路の推定をより高度化することを目的とした。得られた研究成果の公表(学会発表、論文投稿)にもつとめ、口頭3件、ポスター3件の学会発表、3報の論文を投稿した。 1.推定放出シナリオに基づく濃度情報の調査 前年度は、排出量推定ならびに発生源解析を目的として、動的サブスタンスフロー分析を用いた全ライフサイクル(生産、製品使用、廃棄)における排出量推定方法を検討した。そこで今年度は、推定された放出シナリオと、発生源推定をもとに、異なる発生源をもつ日本国内の3河川について環境モニタリングを実施した。つぎに、ライフサイクル環境排出量をパラメータとして環境多媒体モデルを用いて臭素系難燃剤の環境濃度予測をおこない、実測データと比較検証をおこなった。結果、HBCD使用工場(繊維)等の排出源を持つと想定される河川流域で検出された濃度(平均値1810ng/g)と予測濃度(1436ng/g)との間に、また流域人口の多い都市河川(鶴見川)において検出された濃度との間に良い一致が見られた。このことは、サブスタンスフロー分析に基づく排出量予測が実際の環境への放出を良く説明していることを意味している。 2.HBCDによる発生源・推定量解析と化学物質管理への展開に向けた課題抽出 サブスタンスフロー解析は経済社会における物質の動きを定量化し、環境資源効率や環境への排出を改善しようという手法であり、これまで必ずしも環境への排出源に関する情報を環境中の挙動解明に利用されているわけではなかった。本研究は、実測データとサブスタンスフロー解析を結びつけた点でこの種の研究を行う上で今後、他の化学物質についても適用できる可能性がある。
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