研究概要 |
本研究では,中山間地域の里山の管理放棄が土砂移動やそれに伴う物質輸送に及ぼす影響を明らかにすることを目的として,過疎や高齢化が問題となっている奥能登地域(珠洲市および七尾市)において,広葉樹二次林を集水域とするため池で湖底堆積物柱状試料を採取し,堆積物試料の粒径組成,放射性降下物(セシウム137および鉛210),有機物の分析を行った。放射性降下物の深度分布に基づいて,堆積年代を決定し,里山流域の土砂移動や物質輸送がどのように変化したのかに注目して解析を行った。 その結果,七尾市のビシャグソ堤では,1973年から1980年と,1980年から2009年の平均堆積速度はそれぞれ29.4t ha^<-1>y^<-1>,6.7t ha^<-1>y^<-1>と計算され,1980年頃を境に堆積速度が4分の1以下に減少したと考えられた。流域の樹種および森林施業の変化を把握するために,1947年以降の空中写真を判読したところ,七尾市のビシャグソ堤では,1965年時点では流域のすべてが広葉樹に覆われているものの,地表面が見える疎な森林であったことが伺われた。1976年時点に落葉広葉樹に覆われていたのに対し,1982年時点では流域の一部でスギが植栽されていた。1980年付近を境に堆積速度が減少する結果は,1976年時点で集水域を覆っていた広葉樹林が1982年時点に伐採され,集水域の一部でスギが植栽され,里山の利用圧が減少したという,空中写真から推定される土地利用の変化と一致すると考えられる。集水域の土地利用履歴の調査と,ため池堆積物の分析から,里山利用の粗放化が,集水域の下層植生や落葉落枝など地表の被覆を増加させ,表面侵食と流出土砂量を抑制したと考えられた。
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