研究課題/領域番号 |
21710031
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
黒崎 泰典 鳥取大学, 乾燥地研究センター, プロジェクト研究員 (40420202)
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キーワード | 風食 / 砂漠化 / ダスト / 黄砂 / 気候変動 / 気象災害 / 土地利用 |
研究概要 |
これまで、東アジアにおけるダスト発生の年々変化の原因をerosivity(風食を起こす風の能力)とerodibility(土壌・地表面の風食感受性)に区別するため、ダスト発生頻度、強風発生頻度、ダスト発生臨界風速の解析を行ってきた。さらに、Erodibilityの変化を議論するため、降水量、NDVIなどの土壌・地表面状態の解析を行ってきた。これらの解析から、1.1990年代と比べて2000年代はモンゴル、内モンゴル、中国東北地方、河西回廊においてダスト発生頻度が増加、2.内モンゴル西部(砂漠)、河西回廊(砂漠)ではerosivityの変化(強風発生頻度の増加)がダスト増加の原因であり、3.モンゴル(草原)、内モンゴル東部(草原)、中国東北地方(耕作)においては、erodibilityの変化(臨界風速の減少)がダスト増加の原因であることを明らかにした。Erodibilityの変化の原因解明にあたって、草原域の草に着目し、春~夏に生長した草が春に枯れ草として残り、枯れ草がerodibilityに影響しているという「枯れ草仮説」を提唱し、夏季降水量、NDVIの解析から枯れ草仮説が成立する可能性が高い領域を特定した。これらの結果は雑誌Geophysical Research Letterで論文発表した。また、雑誌編集者らに学会のResearch Spotlightに選ばれ学会週刊誌EOSに紹介記事が掲載された。 降水量データ、植生量データ、NDVI、土壌水分量データを用いて、マンダルゴビ気象台における枯れ草仮説の検証を行った。この作業より、夏季植生が多いときは枯れ草仮説が成立しているが、少ないときは枯れ草以外の要素(例えば、積雪、凍土、融解水、放牧)がerodibilityに効いている可能性があることが分かった。この結果については雑誌SOLAで論文発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は次の4つを課題としている。1.臨界風速(土壌粒子が舞い上がり始める風速)を年代別に見積もることで地表面状態のダスト発生への影響を調べる。2.風の解析と併せて、地表面状態の変化と気候変動のそれぞれの影響を調べる。3.臨界風速と地表面状態の関係を明らかにする。4.ダスト数値モデルに入力する臨界風速のデータセットを作成する。課題1と2については、東アジアの1990年代と2000年代の解析を行い、雑誌Geophysical Research Letter (GRL)に論文発表した。課題3については、枯れ草仮説の提唱、枯れ草仮説が成立している可能性のある地域の特定を行い、雑誌GRLで論文発表した。さらに、マンダルゴビにおいて詳細な解析を行い、枯れ草仮説が成立している年と、そうでない年があることを示し、他の要素についても検討しないといけないことを示した。
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今後の研究の推進方策 |
研究を進めてきて、新たな3つの課題が浮かび上がってきた。課題a.臨界風速に影響する地表面要素は無数存在し、地域・時代によって異なるため、一足飛びに広域解析を行うことは困難である。課題b.臨界風速と地表面要素の関係を明らかにすることで、ダスト数値モデルに入力する臨界風速のデータセットを作る予定であったが、課題aを短時間で解決できないため、別の方法を模索する必要がある。課題c.気象台データは気象台周辺の都市化などの環境変化、気象観測基準、測定器材の違いなどが原因で、気象データの均質性に問題があることが判明した。課題aについては、学会発表などを通じて様々な地域を専門とする研究者と意見交換を行い、各地域の情報を得たり、臨界風速を基準とした地表面状態変化調査の重要性を伝えたりしている。課題bについては、気象研究所のダスト数値モデルグループと打合せを行い、4次元同化手法を用いたダスト発生データ作成の模索を始めている。課題cについては、無数に存在する気象台を一気に調べることは不可能であるが、現在、モンゴルの水文・気象研究所の協力を得て気象台観測について文献調査・インタビューを行っている。
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