これまで、東アジアにおけるダスト発生(風食)の年々変化の原因を侵食能(風食を起こす風の能力)と受食性(土壌・地表面の風食脆弱性)に区別するため、気象台データを用いてダスト発生頻度、強風発生頻度、ダスト発生臨界風速の解析を行ってきた。さらに、受食性の変化を議論するため、降水量、NDVIなどの土壌・地表面状態の解析を行ってきた。これらの解析から、モンゴルから中国東北地方の草原・耕作域において、地表面状態の変化(臨界風速の減少)が顕著なダスト多発を引き起こしていたこと、モンゴル草原域において夏季植生の残渣である春の枯れ草がダスト発生に影響していることを明らかにしてきた。このように、気象台データを用いて長期・広域の風食砂漠化の実体解明が大きく前進したが、文献・聞き取り調査から、地域、時代によって観測基準、観測環境が異なるなどといった気象台観測の弱点も明らかになってきた。また、臨界風速の数値モデルへの応用も試みてきたが、上記気象台データの弱点に加えて地点数不足も原因で実現できていない。 そこで、本年度は気象台観測環境の検証とダスト数値モデルに応用するための臨界風速メッシュマップ作成手法の検討を行った。気象台観測環境の検証はモンゴルの水文気象環境研究所の協力を得てツォクトオボー気象台の調査を行った。その結果、気象台から10kmほど離れた谷領域で最もダストが発生しやすく、一方、気象台が存在する台地領域は比較的ダストが発生しにくいことが分かってきたため、谷領域と台地領域による風速、臨界風速の違いを観測する計画を立てた。臨界風速メッシュマップ作成については、気象研究所の協力を得て4次元同化手法によるダスト発生再解析データ作成計画について打合せを行った。
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