本研究は、「被害を減らす」という従来の被害緩和策の考え方ではなく、「害獣との多義的関係を創出することによって、被害に対する許容力を上げる」という被害認識面を意識した対策を実践しつつ、「住民の動物(害獣)に対する認識」を動態的に明らかにする。また、援助機関や自然保護団体が想定する「住民とアフリカゾウの共存」の概念を再検討し、害をたらす動物との共存モデルの構築を試みる。 最終年度の2012年は、「アフリカゾウとの共存モデル」の再検討をおこなった。 「共存」という言葉からイメージされるのは、二者が同じ空間を平和的に利用する状態が想起されがちだが、現実にはさまざまなバリエーションがある。タンザニアの場合は保護区と畑の間に柵や壁などの障壁はなく、ゾウが人間の空間(畑)に出てきており、その結果として軋轢が生じている。一方ケニアでは、電気柵で保護区を囲い込み、人間の空間(畑)とゾウの空間(保護区)を分離することが実践されている。また、セレンゲティ地域を通時的にみてみると、1970年代ごろはゾウが畑までやってくることはなく、これは狩猟によって村人が動物を攻撃していたために、ゾウが人間を恐れていたと考えられる。一方、現在は狩猟が禁止され、国立公園の中には観光客の車がゾウを取り囲んでも危害を加えることはないことを、ゾウも経験し学習している。 このような「共存」のバリエーションの中で、各地域が望ましい状態を実現するうえで障害となる課題を指摘した。
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