持続可能な発展のために、生態系の復元力であるレジリアンスを適切に管理することが重要であるとの認識が高まりつつある。そのため、レジリアンスの管理と持続可能な発展との関連を理論的に解明すること、レジリアンスを考慮した持続可能な発展の評価法を確立することが求められる。本研究の目的の一つは、レジリアンスの変化が及ぼす社会厚生への影響を実証可能な形で導出することである。レジリアンスの変化を評価するためには表明選好法や便益移転法の利用が考えられる。本年度は離散選択データから環境質変化の平均WTPをノンパラメトリックに推定する方法を開発した。この方法は、一定の基準を満たす提示額設計のもとで、確率分布や関数型の特定化による評価バイアスを回避できる点、便益移転法で評価額を予測するときに利用される平均WTPの条件付期待値を最適予測できる点に特徴がある。また本年度は、次年度以降の研究の主軸となるレジリアンスの管理と生態系カタストロフィックリスクの関連を明らかにする理論構築のための準備にも着手した。特に、不確実性・曖昧性のもとでの意思決定に着目し、レジリアンスの管理と生態系リスク、そして持続可能な発展との関連を整理した。次年度は本年度得られた知見をもとに、持続可能な発展を目標とする社会が生態系カタストロフィックリスクに直面するとき、いかなる意思決定を行うのか、そしてレジリアンスの管理が社会厚生や持続可能な発展にどのような影響を及ぼすのかについて考察する。
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