本研究の目的は、環境政策の中心的目標である持続可能な発展を達成するための生態系のレジリアンスの評価および管理の在り方について提案することである. 本年度は、現時点においては将来の状態が不確実にしかわからないが、いずれ新たな情報が入る見込みのある状況において、現時点で自然生態系を保全すべきか否かという意思決定に関する理論的な考察を行った.本研究の課題であるレジリアンスの管理を考えるうえで、このような不確実的状況における意思決定問題を考えることは不可欠である.現代科学における知識では生態系のもつレジリアンスについて完全な情報をもっておらず、どれだけの環境負荷を与えれば生態系が急変してしまうレジームシフトが発生するのかに関して、不確実な要素が多い.このような不確実な状況において、現時点で保全を進めるべきなのか、あるいは、科学の発展に伴い新たな情報が入り生態系のレジリアンスやレジームシフト現象のメカニズムが明らかになったうえで保全を進めるべきなのか、という意思決定問題は、レジリアンスの管理の在り方を考えるうえで重要な課題である.本年度の研究成果では、たとえ再生可能な開発であったとしても、最悪の状況を考慮した費用便益基準を満たさない場合は、現時点で保全行動をすべきであることが明らかとなった.次年度は、本年度の結果が成立するための条件を緩和し、より一般的な状況で適用可能な結論を導出したい.
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