がんの三大治療には、手術療法、化学療法、放射線療法がある。放射線療法は、全身への負担が小さく、臓器の形態と機能温存性に優れている。しかし、がん細胞は容易に薬剤や放射線に耐性を獲得するため、がん治療の限界が存在し、がん細胞の獲得耐性はこれまで以上に克服すべき問題として、浮上している。 我々はヒト肝がん細胞株HepG2とヒト子宮頚部がん細胞株HeLaを用い、一般的な放射線治療で用いられる分割照射によって、一月以内にこれらのがん細胞が放射線耐性を獲得し得ることを明らかにした。がん細胞の獲得放射線耐性は細胞の生存シグナルAKT/Glycogene Synthase Kinase3beta (GSK3beta)/Cyclin D1経路が恒常的に活性化されることが原因である。分割照射により誘導されるDNA損傷は、DNA損傷センサーであるDNA-PKを介して、AKTを活性化する。AKTはGSK3betaによるCyclin D1の分解を抑制するため、AKT/GSK3beta経路によりCyclin D1は過剰発現する。Cyclin D1の分解抑制による過剰発現は、DNA合成期においてCyclin D1によるDNA複製阻害、DNA損傷を誘導し、恒常的にDNA損傷応答を活性化する。分割照射細胞では新たに放射線で誘導されるDNA損傷は、親株の細胞と比較し、効率的にDNA修復されることから、Cyclin D1過剰発現による放射線応答の変化ががん細胞の獲得放射線耐性の原因である。我々が発見したがん細胞の獲得放射線耐性は、放射線治療の成否を決定する重要な放射線応答である。 我々のこれまでの解析から、分割照射による獲得放射線耐性は、AKT阻害剤により抑制される。AKT/GSK3beta/Cyclin D1経路を標的にすることでがん細胞の放射線耐性を抑制することが可能である。本研究により、がん細胞の獲得耐性を抑制し、より有効な放射線治療法の確立が期待される。
|