研究概要 |
放射線はゲノムの突然変異を引き起こすことにより腫瘍化を引き起こす発がん因子として古くから知られているが,胸腺リンパ腫などごく一部の腫瘍を除き,未だ放射線被ばくによる発がんメカニズムは明らかとなっていない。そこで本研究では,放射線誘発乳がんでの発現異常が示唆されている遺伝子・マイクロRNA (miRNA)に着目し,乳腺の発達とともにみられる乳管構造形成やがんの初期段階を構築できる三次元培養実験系を用い,その異常を乳腺上皮細胞に再現することにより乳腺のがん化に寄与するか検討する。本年度はまず,Muthuswamyらの方法(Nat Cell Biol. 2001)に従い,ヒト乳腺株化細胞MCF-10Aを用いた三次元培養実験系を立ち上げた。三次元培養での検討に先立ち,MCF-10A細胞の基本的性質を把握するため,通常の二次元培養での放射線感受性をコロニー形成法にて検討した。次に三次元培養でMCF-10A細胞が放射線被ばくにより示す変化を検討した。MCF-10A細胞を三次元培養して4日目,7日目,11日目に^<137>Cs線源(Gammacell 40 Exactor)にて4~10Gyガンマ線を一度で照射する実験を行ったところ,コロニー形成法で生存率が10%以下となるような被ばく線量でも,乳管構造を形成することが明らかとなった。ラット放射線誘発乳がんで特異的に発現量が増加したmiRNAに関し,その発現ベクターを構築し,来年度からの三次元培養で用いる前段階として,ヒト乳がん細胞で検討した。そのうちmiR-135bの発現調節では細胞増殖には影響はほとんど見られなかったが,17β-estradiol添加による細胞増殖能亢進はmiR-135b発現抑制で観察されなくなったことから,エストロゲン受容体またはその経路にmiR-135bが関与していることが示唆された。
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