研究概要 |
原子力施設での事故,放射線源の紛失・盗難,または放射能テロが起こった場合,被ばく者に適切な医療措置を施すためには,速やかに被ばく状況を把握する必要がある。特に,αおよびβ核種(例えば,UやPu)の体内摂取による内部被ばく線量評価では,誰でもその場で簡単に採取できる「尿」を用いるのが有効である。しかしながら,尿試料の測定前処理には長時間を要するため,前処理工程の短縮が課題となっている。本研究では,有機物除去機能を有するイオン吸着体を作製し,迅速な前処理を達成する分析用固相抽出材料を作成することを目的とした。H21年度は,まず,透水性能の優れた多孔性基材の選択および無機イオンの基本吸着性能の評価をおこなった。多孔性基材としては,流路径の大きい(1-1.5μm)シート状モノリス型ポリエチレンを採用した。放射線グラフト重合法によって,その細孔表面に陰イオン交換基であるジエチルアミノ基を導入し,ディスク状に裁断してカートリッジに充てんした。得られたディスクをDEAカートリッジとよぶ。実尿試料に既知量の^<233>U標準を添加して,DEAカ―トリッジにおけるウランの吸着性能および尿中に多量に含まれる塩成分(Na, K, Mg,およびCa)の除去性能を評価した。尿試料を3mLの10M塩酸溶液とし,DEAカートリッジに透過してウランを吸着させた。ウランの回収率は99.6%,ウラン溶出液中の塩成分の混入率は0.1%以下であり,実用的に優れた性能を確認できた。また,ウランの吸着から溶出まで20分で操作でき,分離の迅速化を達成できた。
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