研究概要 |
原子力施設での事故,放射線源の紛失・盗難,または放射能テロが起こった場合,被ばく者に適切な医療措置を施すためには,速やかに被ばく状況を把握する必要がある。特に,αおよびβ核種(例えば,UやPu)の体内摂取による内部被ばく線量評価では,誰でもその場で簡単に採取できる「尿」を用いるのが有効である。しかしながら,尿試料の測定前処理には長時間を要するため,前処理工程の短縮が課題となっている。本研究では,有機物除去機能を有するイオン吸着体を作製し,迅速な前処理を達成する分析用固相抽出材料とすることを目的とした。まず,透水性に優れたポリエチレン製シート状多孔体(細孔径1-1.5μm)を基材とし,放射線グラフト重合法によって陰イオン交換基(ジエチルアミノ基)を導入してウランの吸着性能を評価した。陰イオン交換基に吸着したUは,塩成分除去のために透過させる洗浄液容量がシート体積の12倍を超えると溶出し始めた。また,透過速度が速いほど溶出割合が高くなった。溶出の主な原因は,高分子鎖に吸着したUが高分子鎖相内で拡散移動するためであることがわかった。そこで,洗浄液の酸濃度を高くし固相分配比を向上させ,さらに洗浄液量を少量に抑えることより,透過速度が速い場合でもウランを固相に保持できることを実証した。陰イオン交換シートの他,スルホン酸基を導入して陽イオン交換シートも作成した。陽イオン交換シートでは,種々の核分裂生成物(Cs^+,Ba^<2+>,Sr^<2+>,Y^<3+>,希土類元素)を効率よく吸着できることがわかった。
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