我々はこれまでに炭素、ネオン、シリコン、鉄イオン、X線を用いヒト胎児皮膚由来正常細胞の細胞致死及び照射直後、24時間後に観察したクロマチン損傷誘発頻度におけるLET・加速核種依存性について調べた。これらの結果より、LET・加速核種の違いによる生物効果の違いは何らかの修復過程を経た後に起こると考えられる生物効果にのみ見られることを明らかにした。 本研究課題では、照射後短時間に起こる生物効果ではなく照射数年後に人体影響として現れてくる可能性のある生き残りながら正常とは異なる変異を有する細胞の生物効果とLET・加速核種の関係の解明を目的とした。 平成21年度は、研究計画書の個別目的実験1(ヒト胎児皮膚由来正常細胞の突然変異誘発の線量効果関係に関するLET及び加速核種依存性)及び、2(誘発された突然変異クローンを採取し、多重PCR法によるDNAレベルの損傷におけるエクソン領域の欠失の大きさとLET・加速核種の関係)の検討を行った。細胞はヒト胎児皮膚由来正常細胞を、放射線は炭素、ネオン、シリコン、鉄、X線を使用した。突然変異誘発頻度はX染色体に存在するhprt遺伝子座を標的とし6チオグアニン耐性クローンの出現により算出した。 それぞれの線量効果関係より算出。たRBE値とLET・加速核種の関係は、細胞致死、照射24時間後に観察したクロマチン損傷誘発頻度と同様に依存性が認められた。また、hprt遺伝子座のエクソン領域における欠失の大きさを突然変異誘発頻度がほぼ同等であったX線(1.0~2.4Gy)と260keV/μmの鉄イオン(0.2~0.8Gy)で調べた。結果、誘発頻度が同等であっても鉄イオンの方が大きな欠失を引き起こしていた。これらのことより、照射後正常とは異なる変異を有した細胞においてもLET・加速核種の様な物理学的違いが影響し続けている可能性が示唆された。
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