我々はこれまでに加速核種及びLETの違いにより引き起こされる生物効果は何らかの修復過程後に引き起こされる生物効果にのみ見られる現象であることを明らかにしてきた。本研究課題では、照射後短時間に起こる生物効果ではなく照射数年後に人体影響として現れてくる可能性のある生き残りながら正常とは異なる変異を有する細胞の生物効果とLET・加速核種の関係解明を目的とした。 平成22年度は、平成21年度に引き続き研究計画書個別目的実験2(誘発された突然変異クローンを採取し、多重PCR法によるDNAレベルの損傷におけるエクソン領域の欠失の大きさとLET・加速核種の関係)として、X線、炭素、ネオン、シリコン、鉄イオンより誘発した突然変異細胞のhprt遺伝子座エクソン領域における欠失パターンの違いを検討した。さらに個別目的実験3(突然変異誘発の引き金となるクロマチンレベルの損傷は何か?遺伝的に安定に保持されている特定のクロマチン損傷は存在するのか?)として、炭素、ネオン、シリコンイオンの100keV/μmによるクロマチン切断の再結合と核種の関係を検討した。 hprt遺伝子座における欠失パターンはLETのみならず核種によっても変化し、さらに欠失サイズはLETの増加だけではなくイオン源の原子番号にも依存している可能性を示唆することができた。また、照射直後に観察したクロマチン切断では平均切断数及びその頻度分布においても核種による違いは認められなかった。一方、照射後すぐに生じる再結合の頻度では核種間において差は認められなかったが照射後数十時間後に生じる再結合において差が認められた。また再結合後の平均切断数は炭素とネオンイオンでは有意な差が認められなかったが、その頻度分布においては異なる傾向を示した。 これらのことより、LET及び加速核種による生物効果の違いは、量的な違いだけでなく質的にも違うことが示唆された。
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