プロトンまたは重粒子イオンなどの荷電粒子放射(イオン)線は、局所線量分布がその飛跡に集中し、さらにはその止まり際において急激なLETの上昇(ブラッグピーク)を示す。本研究は、Braggピーク近傍の重粒子イオンを照射して、哺乳類培養細胞における細胞致死、DNA二本鎖切断誘発とその修復の研究から、イオン固有の高密度電離・励起による生物効果を明らかにするとともに、そのメカニズムを解くことを最終的な目標としている。治療に用いられている高エネルギーなイオンのブラッグピークはフラグメンテーションなどにより軽二次粒子を含む。そのためピュアなイオンビームによる照射実験を可能にする必要があり、本課題では6MeV/n程度に加速したイオンを用いることが可能な照射システムをHIMAC-MEXPコースに構築した。最も軽粒子であるプロトンからキセノンイオンまでの照射実験が可能となった。まず、プロトンのブラッグカーブに沿って、3.4、2.6、2.0MeVのエネルギーにて、細胞致死効果をコロニー形成法を用いて測定した。最もエネルギーの低いプロトンビームでは、X線に対。ておよそ1.6倍も効率よく細胞致死を誘発することを確認した。さらに、Neイオンでは、3.0MeV/n(LET:974keV/μm)と1.1MeV/n(LET:1460keV/μm)で照射を行い、LETの増加にともなって細胞致死の作用断面積(σ)が減少する傾向を示した。これは、エネルギーの減少に伴いLETは増加するが、そのイオンの飛跡に沿って起こるδ-rayなどの空間的分布(イオントラック構造)が縮小することを反映していると考えられた。同様の傾向をArイオンでも確認した。
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