環境化学物質に対する生体反応は「転写因子による遺伝子発現制御を介した反応」というパラダイムが実験的証拠に基づいて提示され、支配的な概念となっている。一方、マイクロRNA(miRNA)が発見されて以来、miRNA群が転写因子群と並んで遺伝子発現制御を担う重要な因子であることが明らかにされてきたが、環境化学物質による生体反応に対しては、miRNAが及ぼす影響の研究は未だほとんど手つかずの状況である。そこで、マウスを用いてダイオキシンの曝露実験を行い、下記の結果を得た。 1.環境汚染化学物質であるダイオキシンを曝露されたマウス肝臓で、量の変動するmiRNAを複数発見した。 2.これら変動するmiRNAの1つmiR101aに関して、標的遺伝子PTGS2の発現上昇を発見した。 3.PTGS2発現上昇によるものと推定される肝炎発症が起こることを発見した。 4.miR101aの発現量低下に伴う前駆体量低下を発見した。 これらの実験事実は、環境汚染化学物質であるダイオキシンがmiRNAを介した遺伝子発現調節異常を引き起こすことを明らかにした重要な発見である。研究題目にかかげた「環境化学物質に対する生体応答にマイクロRNAは関与するか?」という問いについて、本研究により明確な答えを得た。
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