研究概要 |
リン酸トリス(1,3-ジクロロプロピル)(TDCPP)に代表される、アルキル系有機リン酸トリエステルは可塑剤や難燃材として世界各地で大量に用いられているが、これらは蓄積性もあり、種々の毒性を有する。本研究は塩素を含むアルキル有機リン酸トリエステルを分解できる世界で唯一の菌,Sphingomonassp. TDK1のアルキル系有機リン酸トリエステル分解のメカニズムを分子レベルで解明することを目的としている。平成21年度は以下の研究業績をあげた。 TDCPP分解を可能としている酵素の構造学的知見を得るため、その初発分解酵素であるホスホトリエステラーゼの精製及びクローニングを行った。TDK1株から精製したホスホトリエステラーゼを用い解析した内部ペプチド配列情報を基に縮重PCR法で部分遺伝子配列を明らかにした後、インバースPCRでその周辺遺伝子を解析した。本酵素遺伝子周辺には、他のアルキル系有機リン酸トリエステル分解酵素遺伝子群は見いだされなかったことから、本酵素遺伝子はクラスター等を形成せず単独で存在している可能性が示唆された。また、サザンプロット解析の結果から、本酵素は1コピーのみ存在する遺伝子であることが明らかになった。 遺伝子配列を基にした、相同性解析及び分子系統解析から、今回単離したホスホトリエステラーゼはこれまでによく研究されている、B. diminutaのopd遺伝子や、Arthrobacter sp.のmpd遺伝子などとは遠縁であり、Burkholderia sp.のフェニトロチオン加水分解酵素遺伝子(fedA)と比較的近縁であることが明らかとなった。しかしながら、本酵素とFedAの間には細胞内局在、基質特異性、4次構造など種々の違いが認められることから、本酵素遺伝子は、これまでに報告のない新規酵素である可能性が考えられた。
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