研究概要 |
リン酸トリス(1,3-ジクロロプロピル)(TDCPP)に代表される,アルキル系有機リン酸トリエステルは可塑剤や難燃材として世界各地で大量に用いられているが,これらは蓄積性もあり,種々の毒性を有する.本研究は塩素を含むアルキル有機リン酸トリエステルを分解できる世界で唯一の菌,Sphingomonas sp. TDK1株のアルキル系有機リン酸トリエステル分解のメカニズムを分子レベルで解明することを目的としている.平成22年度は以下の研究業績をあげた. 昨年度単離したTDK1株ホスホトリエステラーゼ遺伝子の大腸菌における発現系を構築した.ホスホトリエステラーゼ遺伝子発現大腸菌の上清において,有意なTDCPP分解活性が認められたことから,本酵素が大腸菌においても活性を有する形で発現することが明らかになった.大腸菌発現産物のSDS-PAGE解析及びN末端アミノ酸配列解析より,本酵素は細胞内においてプロテオリシスを含む何らかのプロセッシングを受けている可能性が示された.本プロセッシングが天然型酵素でも行われているのかを解析するため,TDK1株から精製した天然型酵素のMALDI-TOFMSによる精密質量分析を行った.その結果,本酵素はTDK1株内においてタンパク質の切断のみではなく,翻訳後修飾も受けている可能性が示された. 本酵素のTDK1株内における生理的機能をより詳細に解析するため,TDCPP分解能を欠損した,TDK1株ホスホトリエステラーゼ遺伝子破壊株(Δhad株)を構築した.破壊株構築の確認はPCR,サザンブロット解析及びTDCPP分解活性測定により行った.Δhad株はTDCPPを唯一のリン源とした場合に生育せず,TDK1株内に存在するTDCPP初発分解酵素は本研究で単離した遺伝子のみである事が明らかになった.
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