研究概要 |
リン酸トリス(1,3-ジクロロプロピル)(TDCPP)に代表される,アルキル系有機リン酸トリエステルは可塑剤や難燃材として世界各地で大量に用いられているが,これらは蓄積性もあり,種々の毒性を有する.本研究は塩素を含むアルキル有機リン酸トリエステルを分解できる世界で唯一の菌,Sphingomonas sp.TDK1株のアルキル系有機リン酸トリエステル分解のメカニズムを分子レベルで解明することを目的としている.平成23年度は以下の研究業績をあげた. 昨年度構築したTDK1株ホスホトリエステラーゼ遺伝子破壊株(Δhad株)を用いて,野生株で分解可能な種々の有機リン酸トリエステル化合物存在下における生育特性解析を行なった.その結果,Δhad株はいずれにおいても生育せず,本酵素はTDCPPだけでなく,他の有機リン酸トリエステル化合物の代謝・分解をも担う酵素であることが明らかになった.また,本酵素の誘導発現機構について,種々のリン源およびリン濃度での条件で解析したところ,本酵素はTDCPP存在下で特異的に誘導されるのではなく,培地中の無機リン濃度の減少にともない発現する酵素であることが明らかになった. さらに,これまで解析不能であったN末端アミノ酸配列について,デブロッキング法を用いてさらなる解析を行なったところ,本酵素のN末端アミノ酸はこれまでのバクテリア酵素で報告のないピログルタミン酸残基であることが明らかになった.また,このアミノ酸配列解析結果より,本酵素がTDK1株内でプロセッシングを受けている可能性が示唆されたことから,シグナルペプチドの推定を行なったところ,本酵素は既知の有機リン酸加水分解酵素とは異なり,Sec経路を経由してペリプラズムに移行している可能性が示唆された.
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