研究概要 |
安価で環境負荷の低い不溶化技術は,射撃場および鉱山跡地の広範な重金属汚染対策として有効である.多くの汚染現場で急務とされる荒廃植生の回復という問題に対応するために,緑化と金属不溶化の両方に対応した対策技術が必要であることを鑑みて,重金属汚染対応型の緑化基盤材の開発が必要である.そこで,本研究では,植物根の生理活性を受ける根圏土壌において,(1)重金属の溶解-析出や金属の化学形態と,(2)金属不溶化と植物生育に伴う,微生物生態系の修復との関係を明らかにすることを目的とした.土壌のpHと植物根圏作用による鉛弾の溶解性に及ぼす影響を明らかにするために,風化レベルの異なる鉛弾を土壌に添加し,pHを5,7,9の3段階に調製後,ペレニアルライグラスの栽培試験を100日間実施した.TCLP溶出試験の結果,pH5の土壌からは最大で21ppmの鉛が溶出した.一方,pHを7に調製した土壌からの鉛の溶出量は2.9ppm,pH9の土壌からは検出されなかった.逐次抽出法の結果,交換態鉛の濃度は,pH5の土壌で95~202mg/kgであるのに対して,pH7以上の土壌では2.1-3.6mg/kgに減少することが確認された.土壌中のDNAを抽出し,このDNA中の真正細菌の16S rDNAを標的とし,DGGE法を用いて土壌中の細菌叢の群集構造を明らかにした.細菌叢の変化は土壌のpHに依存し,鉛弾の風化レベルの違いによる影響は認められなかった。土壌pHを7~75程度にすることで植物の地上部に吸収される鉛の濃度が減少し,植物体の成長が促進される.それに伴い土壌細菌叢も増加し,土壌細菌の生態系が改善することが示唆された.
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