天然の酵素や微生物を環境浄化に利用する試みは数多いが、一般に生物分解は操作条件に敏感であり、また汚染物質との接触効率を高めることが難しく、長時間の処理を要するなどの問題点がある。本研究では、これらの諸問題をバイオ技術とは別のアプローチで解決することを考え、酵素様活性を示す新規有機ホスト無機複合体を調製し、これに水中の汚染物質を濃縮した後そのまま分解・低害化する高効率な環境浄化システムの構築を目指した。昨年度は有機ホスト分子チアカリックスアレーンのセリウム(IV)二核錯体がフォスファターゼ様活性を示すことから、これを界面活性剤一シリカゲル複合体(アドミセル)に組み込むと、フェニトロチオンやカルバリルなどの有機リン系およびカーバメイト系農薬をアドミセルの界面活性剤ミセル領域に濃縮し、そのまま加水分解できることを見出した。これらの農薬は、エステル部位が神経伝達系酵素を阻害することにより毒性を発揮するため、加水分解を受けると毒性が低減する。従って、水中からの有機リン系およびカーバメイト系農薬の捕集と低毒化について可能性が開けたため、本年度はその高効率化を目指して反応条件について検討を重ねた。その結果、チアカリックスアレーン錯体のアドミセル中含有量を増やしても、加水分解の効率は期待したほどは向上せず、アドミセルのみでも加水分解が促進されることが分った。即ち、チアカリックスアレーン錯体が無くとも、農薬の捕集と分解を行う浄化システムを設計することは可能だが、より高効率に分解反応を行うにはチアカリックスアレーン錯体の触媒能の向上が鍵となり、更なる検討が必要である。
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