堆積物食性多毛類イトゴカイは、有機物汚染域に生息する代表的な底生生物であり、高い有機物分解能力を有する。堆積物中の有機物の分解は、イトゴカイと細菌の協働により促進されると考えられるが、有機物分解に関するイトゴカイと細菌の相互関係は明らかになっていない。本研究では堆積有機物の分解に関するイトゴカイと細菌の相互関係の解明を目指している。 イトゴカイ高密度時にAlphaproteobacteria門に属する細菌群の増加がこれまでに報告されているが、同時期に有機物量も増加していることから、有機物量とAlphaproteobacteria門に属する細菌群の関係を調べた。愛媛県南宇和郡愛南町南部に位置する海域の魚類養殖場内外において、採取した堆積物試料(底質表層~1cm)について全有機炭素濃度(TOC)とキノン分析を行った。全28試料の堆積物のTOCは1.66~49.6mg/g^-乾泥の範囲であった。TOCと微生物量とみなせるキノン量に強い正の相関が認められた。TOCが高い地点ではUQ-10が優占し、低い地点ではUQ-8が優占する傾向にあった。つまり、有機物負荷の増加に伴いUQ-8を持つBetaproteobacteria門に属する細菌群主体の群集構造からUQ-10を持つAlphaproteobacteria門に属する細菌群主体の群集構造に変化することが明らかになった。したがって、Alphaproteobacteria門に属する細菌群は、イトゴカイの生育・増加および有機物量の増加の両方に関係していることがわかった。現在、イトゴカイと密接に関わるAlphaproteobacteria門に属する細菌を特定するために、イトゴカイ周辺の試料(堆積物、イトゴカイ、イトゴカイの卵、棲管、糞粒)を野外および室内培養系から採取し、PCR-DGGEによる解析を進めている。
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