ポリ乳酸は、微生物発酵によって合成される乳酸を重合させたバイオマス由来のプラスチックである。石油の大量消費による資源・環境問題が叫ばれる中、ポリ乳酸のように再生可能なバイオマス原料から作られるプラスチック材料の重要性が高まっている。しかし、ポリ乳酸は石油プラスチックに比べて生産コストが高く、普及を妨げている主要因となっている。コストが高くなる理由として、ポリ乳酸ができるまでに、植物によるバイオマス生産、微生物による乳酸発酵、化学合成による重合反応の3段階のステップが必要であり、プロセスが複雑であることが挙げられる。最近、我々の研究グループでは、乳酸を細胞内で重合できる、画期的な改変型ポリエステル重合酵素を発見した。申請者らは、この酵素を用いて組換え大腸菌によるポリマー合成を試み、実際にグルコースを炭素源として、乳酸が重合したポリエステルを合成することができた。このことは、これまでバイオプロセスと化学プロセスを経て合成されていた乳酸ポリマーが、バイオプロセスのみにてワンステップ合成できることを意味している。本研究課題では、この系をさらに遺伝子組換え植物に持ち込むことにより、一段階のバイオプロセスによるバイオプラスチック生産系の確立を目指した。遺伝子組換え植物では、光合成によるバイオマス生産と微生物発酵を一つの宿霊内で行うことができるため、最も少ない工程でポリマー生産を行うことができる。植物によるポリマーの直接生産系が実現すれば、より省エネルギー低コストでの物質生産が可能になる。この目的のためには、乳酸ポリマーの生合成に必要な酵素群(モノマー供給酵素と重合酵素)を植物細胞内で機能させる必要がある。本年度は、これらの酵素をコードする遺伝子の植物での発現を確認するために、植物への遺伝子導入系を確立し、導入した遺伝子の発現とポリエステル合成を確認できた。
|