量子コンピュータは0>と1>の量子力学的重ね合わせ状態を情報として保持する。しかしながら、重ね合わせ状態のコヒーレンスは、外界との相互作用や外部ノイズが引き起こすデコヒーレンスのために破壊されてしまう。そのため、量子ビット中でいかに長いコヒーレンス時間を実現するかが重要な研究課題となっている。 まずは銅酸化物超伝導体の固有ジョセフソン接合に着目し研究を行った。固有ジョセフソン接合を用いると高品質な接合作製が可能であり、巨視的量子効果が観測される温度が金属超伝導体よりも高いことなどの利点がある。また、d波超伝導性にもとつくπ接合を含んだ"静かな量子ビット"も提案されており、静かな量子ビットでは外部磁場をかけずに自発的に量子ビットが作製可能であるため、より長いコヒーレンス時間を保てると期待される。 今年度はマイクロ波印加のための測定系の構築およびNb系ナノSQUIDの作製プロセスを構築し、本研究で目指している磁束量子ビット(銅酸化物超伝導体と金属超伝導体を集積化した2重のループ構造SQUID)の検出回路の作製まで実施した。マイクロ波回路を用いることによりマイクロ波アシストMQTの観測に成功し、マイクロ波回路と超伝導素子が適切に結合系を構成していることが確認された。 また、近年発見された鉄系超伝導体の量子ビットへの応用可能性についても検討を行った。鉄系超伝導体は高温超伝導体につぐ転移温度をもつため動作温度が比較的高いことが期待され、またノードがないことから散逸が少ないことも期待される。鉄系固有ジョセブソン接合の作製に世界で初めて成功した(現在論文を投稿中)。今回作製した固有ジョセブソン接合の異方性はビスマス系超伝導体と比較し低かったが、今後新たな鉄系物質を用いた固有ジョセブソン接合の作製を行う。
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