本研究の目的は2000年代前半から注目されてきた"特定の材料に対して特異的に高いアフィニティーを示すペプチド(以後、材料結合ペプチドと示す)"の材料認識能を利用し、従来不可能であった溶液中におけるナノスケールの分解能での表面化学組成分析技術を開発することである。我々は以前の研究でターゲット材料に対する結合メカニズムが明らかにされているTi結合ペプチドを用いて探針の設計、測定条件の最適化を中心に上記技術の開発を行った。 本手法では固体表面の化学組成のコントラストは原子間力顕微鏡(AFM)探針と固体表面間に作用する接着力の差として現れるが、ポリエチレングリコールなどのスペーサ分子をペプチドと探針間に導入することで、ペプチド分子の空間的自由度が増加し、化学組成像が劇的に明瞭になる事が明らかとなった。また探針と試料表面の接着時間もコントラストに大きな影響を与えることを明らかにした。 また、本研究の手法は他の材料結合ペプチド分子にも適用が可能である事を示した。具体的には異なる材料結合ペプチドを選択し、AFM探針上に固定することで、金属、半導体、酸化物、ナノカーボン材料など、最先端の工業製品で用いられる様々な材料を含む系の材料分析が可能である事を示している。また、本研究で確立した手法は今後、電極表面における電気化学反応、生体分子の鉱物化プロセスなど、従来解析が困難であった様々な分野の液中表面化学反応のその場観察で応用されることが期待される。
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