カーボンナノチューブ(CNTs)の生体に与える影響についての研究は、近年のナノテクノロジーの急速な進歩に伴い、非常に重要であると考えられる。CNTsの急性毒性に関しては、近年その長さの違いにより炎症誘導性が異なることが報告されている。また、慢性の影響として、p53ヘテロノックアウトマウスおよびラットを用いた系において、ある種の多層CNTによる中皮腫の発症が報告された。そこで、本研究では、CNTsの形状や製造過程の違いにより、急性毒性や発がん性に差があるかどうかを解析し、より生体に安全なCNTsの物性特性を提案することを最終目標とした。昨年度、マウスを用いた実験を行い、CNTsの形状や製造過程での処理法の違いにより、生体に対する影響が異なることを示唆する結果を得た。そこで今年度は、in vitroでCNTs粒子を細胞に暴露した際のコロニー形成能および形質転換体形成能の解析を行い、細胞毒性および細胞に与える影響の評価を行った。 昨年度の結果をもとに、形状や製造過程での処理法の異なる3種のCNTsを用いて、マウスBalb3T3 cloneA31株にCNTs暴露後のコロニー形成能の差を比較することにより、細胞毒性を評価した。その結果、3種中1種のCNTでコロニー形成能の低下が見られた。また、CNTs暴露後に形成されたコロニーに形質転換体が存在するかどうかを調べたところ、上記コロニー形成能の低下したCNTでは、形質転換体が観察された。この形質転換体の割合を算出したところ、CNT用量依存性を示した。また、このCNTは、昨年度マウスに急性炎症や慢性炎症を惹起したものと一致していた。しかし、他の2種では、このような影響は見られなかった。以上の結果から、今回用いた3種中1種のCNTは、高濃度で生体に暴露された際には細胞毒性を示す可能性あることが示唆された。これらの結果は、CNTsの形状や製造過程での処理法により、生体に対する影響が異なることを示唆しており、今後、生体にとってより安全なCNTsの物性特性を提案する一助となるものと期待される。
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