(1)光によって直接的に三次元構造を形成する技術は、高価なフォトマスクや手間のかかる操作を伴わずに複雑な加工を行うことができるため、さまざまな用途への応用が期待されている。 我々は、独自の三次元光加工技術として異なる二つの波長のレーザーを用いる方法を開発している。この方法は二つの波長の光を吸収したときにのみ進行する特殊な光増感反応を利用しているが、従来の反応は増感剤の吸光係数の低さや光反応速度の遅さのため、光反応の効率は非常に低かった。そこで、2010年度はより効率的な光増感反応として、チオフェンの高励起状態からの電子移動の調査を行った。チオフェンは、吸光係数が高く、チオフェンを増感剤として使用することにより、従来の方法よりも効率的な三次元加工が期待できる。実際にチオフェンと電子受容体を結合した分子を作成し、高励起状態から高速の電子移動が進行することを確認した。 (2)金ナノ粒子に対して平面分子が"面"で配位した機能性ナノ粒子は、光電変換等の様々な用途において有望な材料である。我々は、ポルフィリン誘導体を平面的に配位させた金クラスターを合成し、その光反応性をレーザーフラッシュフォトリシスにより調査した。その結果、ポルフィリンの高励起状態から高速の電荷分離とそれに伴う電荷再結合が進行し、その速度はクラスターとポルフィリンの間の距離に依存することが明らかとなった。このような、金クラスターに対しπ系が平面に配位した系での光電子移動の観察は世界で初めてであり、ポルフィリンの高い吸光係数を生かした太陽電池への応用などを検討している。
|