本研究は、これまでに申請者が開発した超親水性水酸化フラーレン合成技術を応用し、およそ1ナノメートルの粒径をもつ水溶性水酸化フラーレンナノカーボン粒子に蛍光色素を結合させ、蛍光顕微鏡などを用いて生体組織観察が可能な新規蛍光イメージング分子の開発を目的とする。今年度は、疎水性の蛍光色素を化学的に導入しやすいよう、極性有機溶媒に可溶な水酸基数の少ない低度水酸化フラーレンを簡便に合成する手法を開発し、酸塩化物とのエステル化反応によって蛍光部位の導入に成功した。蛍光色素としては、ピレン、プロピルピレン、ジメトキシメチルオキソキノキサリン(DMEQ)を検討したところ、得られた水酸化フラーレン誘導体3種類とも、蛍光を示すことが確認された。また、蛍光部位の導入方法の検討過程で、ベンゾキノンからベンゾフランを経由して新規蛍光色素を合成する手法も見出した。ピレンおよびプロピルピレン誘導体は、各種分析手法により構造の同定を行い、いずれも蛍光部位がフラーレン骨格に対し3当量導入されたと見積もられた。また、より蛍光部位の自由度が高いプロピルピレン標識水酸化フラーレンについては、隣接するピレンπ共役平面どうしが励起状態で重なることに由来する、エキシマー蛍光が観測された。続いて、このプロピルピレン標識水酸化フラーレンを出発に、これまでに申請者が開発している過酸化水素を用いる手法により、フラーレン骨格へのさらなる水酸基の導入による水溶化にも1種類成功し、水溶液中で青色蛍光を観測した。さらに、蛍光寿命測定から、ピレン部位からフラーレン核へのエネルギー移動が起こっていることと、C_<60>に比べて水酸化フラーレンではその移動効率が高くないことが、本ナノカーボン粒子の蛍光挙動を支持しているという知見が得られた。
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